祖母から受け継いだもの

夫の祖母は8年前に96歳でなくなりました。

私が嫁に来た時の祖母はちょうど80歳でした。

祖母はとても品があって頭がよく、いつも「本当は医者になりたかった」と言ってました。

しかし時代が時代だったためそれは叶わず、女学校を卒業して花嫁修業の後お嫁に来たのでした。

祖母は毎日朝、鏡台の前に座りお化粧をしてました。

眠る時も髪をカーラーで巻いてネットをかぶってセットしてから床についていたのでいつもきれいにまとまっています。

そしてストッキングをはきスカートをはいていました。

毎月の病院の検診にも、前日に近くの美容室で髪をカットし染めてからスーツを着て行く程のオシャレさんで、「なんて素敵なおばあちゃんなんだろう。私もこんなおばあちゃんになりたい」と思いました。

私自身核家族で育ち、父方も母方の祖父母とも縁が薄かった私は幼い頃から家に「おじいちゃん」「おばあちゃん」がいる友達がうらやましく思ってきました。

今思えば私が夫に惹かれた理由も、夫の優しい雰囲気の中に「きっと祖父母から大事に可愛がられ育てられたのだなぁ」という憧れみたいなものを感じとったからではと思います。

実際、嫁に来たことで「自分にもこんな素敵なおばあちゃんができた!」と喜んだものでした。

祖母も孫の嫁である私をとても可愛がってくれました。

祖母の部屋はお仏壇の部屋のとなりにあったのですが、私が娘を身ごもりひどいつわりで苦しんでいた時、家に1人でいるのが心細く夫にお昼頃来てもらい、両親、祖母が住んでいる店に連れて来てもらいました。そしてお仏壇の部屋に布団を敷いてもらい祖母と一緒に過ごしていました。

また、出産したらしたで毎日子どもを連れて遊びに来てはまたお仏壇の部屋に布団を敷いてもらい子どもと一緒にお昼寝。夕方になって目を覚ませば、祖母と母が夕食を作って用意してくれており、子ども達とご馳走になって仕事が終わった夫と帰るという生活をさせてもらっていました。

今振り返るととんでもない嫁でしたが、祖母や両親からは一切叱られたり注意を受けたりすることなく、そんな私をあたたかく見守り受け入れてくれたのでした。

商売の家に嫁いできましたが11年間は専業主婦でいさせてもらい、下の息子が小学校に上がるくらいから少しづつ店の手伝いをするようになりました。

祖母は毎日午前と午後には店に1時間程顔を出しては椅子に座りニコニコとお客様の相手をしていた看板おばあちゃんでした。

お客様から「いつもお元気ですね」

「いつもきちんとされていますね」と祖母を褒められると私もうれしく「そうなんです。うちのおばあちゃんはすごいんですよ」と自分の事のように誇らしく言っていました(笑)

そんな祖母も93歳くらいから歩けなくなりなりました。

そこで私は寝たきりになった祖母の部屋に毎日顔を出しては祖母からいろんな思い出話を聞かせてもらいました。

普段夫や両親には必要なこと以外は話さない祖母でしたが、孫の嫁である私には夫や両親も知らないことまでたくさん話してくれました。

そして一番印象深かったのは寝たきりになったことで「あー、もうこれまでか。短かった人生やった」と吐露した祖母の言葉でした。

私としては90年以上も生きて充分な人生だったのではと思ったのですが、祖母としてはまだまだやりたかったことがあったのだと思いました。

祖母が亡くなって8年がたち私も来年は50歳を迎えます。

祖母から受けたたくさんの恩をより善く周りに還元し、祖母の心を受け継ぎ残りの人生を精一杯生きたいと思います。